寿司転生

色々あってトラックに跳ねられた。久々の寿司ランチだと思ってはしゃいでいたのがまずかったか。それにしたってあれはひどい。やりきれない人生にやけになった若者の犯行としか思えない。楽しみにしていた麻布十番の寿司が食べられないなんてどうしてくれるんだ。

という風に考えられるのもなぜか俺が生きているからだ。それも見知らぬ草原に横たわって。青空を見つめて。代々木公園に向かっていたわけじゃないんだが。どうなってるんだ。だが聡明な俺はすぐに気付いた——異世界転生ってやつだこれ。となればやることは一つ。

「ステータス!」

予想通り、目の前に半透明のボードのようなものが展開される。それによれば、俺のステータスは以下の通りだった。

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寿司マフィアLv.1

ランク:銀のさら

スキル:配達(Lv.1)申請書(Lv.1)

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え?

もっとこう、戦士見習いとか、そういうのではないのか……。気を取り直して、スキルで何ができるのかを確認していく。配達スキルは効率よく物体を移送できるらしい。瞬間移動ではなく、物体を寿司桶に入れると浮かんで運ばれていくようだ。なんだか奇怪だし、そもそも寿司桶がない。申請書スキルは……これはすごい!所定の書類を10枚ほど書くと、そこに書かれたことが実現するらしい。ドラゴンボールのようなスーパースキルだ。ただし、文章がうまくないと実現しないらしいので、そこは注意が必要だ。なお、このスキルを認識した途端なぜか手にペンを握りしめていた。しかも何やらインクが切れる気配もない。すごい。すごいのだが、なぜインクが切れないことがわかったかというと、それだけの回数この申請書を書いたからだ。まずは寿司桶がないことには配達スキルが活かせないので、寿司桶を申請したいのだが、寿司桶が必要な理由を10枚も書けないので何度も書き直している。修正ペンがないので一回間違えただけで書き直しだ。修正ペンも欲しいがそれも10枚書ける気がしない。

こんなことをしていたら腹が減ってきた。そりゃそうだ、異世界でも腹は減る。寿司桶の前に何か食料が必要だ。スキルいじりをやめて周りを見渡すと、遠くに人影があった。どうやらあちらもステータスに夢中になっているようだ。近づいて声をかけてみよう。

「ハチャー」

なんだろう、奇妙な呪文を叫び始めた。え!?いつの間にか彼の手にはパンのようなものが現れた。すごい、なんて有用なスキルなんだろう。ぜひともお近づきになりたい。

「すみません、もしかしてあなたも転生者ですか?よければ協力できないかと思うんですが」

こうして俺はハチャプリシヴィリと名乗る男と行動を共にすることになった。相変わらず申請書スキルは有効活用できないままだが、ハチャプリというチーズナンのような料理を運ぶのに配達スキルは恐ろしく役立ち、近くにあった町で俺たちは成功し始めていた。そんな時だった、隣町がドラゴンに襲われたというニュースが流れてきたのは。これは生命の危機だ。俺たちは協力して、ついに10枚の申請書を書き上げた。俺たちが求めたのは、「ドラゴンをなつかせるハチャプリ」。ハチャプリシヴィリのハチャプリ生成スキルが上がっていたこともあり、いけるような気がした。だが結果は、思いもよらぬものになった。

面接。

申請書スキルを管理する団体のもとに赴いて面接を受けなければいけないという。そんなことをしていたらドラゴンが来てしまう。というか実際に来てしまったけれど、王都の騎士団が撃退してくれた。なんという空回りだ。ちなみに面接までしたのに採択されなかった。もっといいシステムにできるだろ!