食べログTOP10レビュアー魯山人

 東京ほどマグロを食べるところはないだろう。マグロで一番美味いのは、なんといっても青森の大間のマグロである――ということになっている。私の経験においても、これがサイコーである。しかしこの大間のマグロというの、いつでもあるとはいかない。ここ以外で捕ったものは、とうてい大間のマグロのような美味さがないので、大間ものは珍重されている。
 マグロの中で一番微妙なのは、ビンチョウマグロという飛魚のような長いヒレを備えているもので、これは肉がべたべたとやわらかく、色もいやに白く、その味もわるい。とうてい美食家の口には問題にならぬ代物である。しかし、回転寿司では安価ゆえかよく登場する。気分によっては、意外と悪くない気もしないでもない。一時は盛んにアメリカへ輸出されて、油漬けにしてサンドイッチに使ったという話もある。ビンチョウマグロの側も何かを感じたのか、なぜかアメリカの近海を泳ぐようになったので、輸出しようとした日本の業者が残念がったようだ。あとはカジキマグロ、キハダマグロ、メジマグロなどがある。メジはカツオみたいなものだ。キハダやカジキは冬場は台湾から来るもので、たいしておいしくない。夏に沼津や小田原あたりからくるのが江戸前というもの。マグロの産地をよく知ると色々と楽しみが深くなる。

 トロの場合にはワサビの辛さが脂肪で飛ばされてしまうので、やたらとサビを利かせようとする客もいるが、マグロが安いときにはワサビのほうが高くつくこともあるくらいなので、商売あがったりというやつだ。そんな時はサビ抜きにせざるをえないけれど、マグロはちょっと臭みがあるものなので、そういう時でもショウガくらいは乗せたいものだね。

 結論を言えばマグロなんてのはいわばB級グルメであって、もとから一流の食通を満足させるようなものではない。いかに最上の大間のマグロといっても、たかの知れたうまみに過ぎない。