復活

僕がロッポンギにあるポールスミスに足を踏み入れると、予想に反してそこに見えたのはいくつかの人影だけだった。全国のスシ・マスターが集まるという話ではなかったのか。もしかすると、はめられたのか。その疑念をかき消すように、入口脇に控えていた緑の派手なスーツ姿の男に呼びかけられた。

「チーズナンの亜種といえば?」

「ハチャプリ」

「では小籠包の亜種は?」

「ヒンカリ」

「よろしい」

この国のほとんどの人間は、チーズナンも小籠包も知らない。だからこそ、同志を確認するための合言葉にはうってつけだ。とはいえ、それで疑念が完全に消えたわけではない。当局にかぎつけられ、スシ・マスターを一網打尽にする罠でないとはまだ言い切れない。取調室のような別室に通され、神経質そうなメガネの中年男の前に座らされた時には、仲間のことだけは漏らすまいと覚悟を決めかけていた。

「我々が欲しいのは、利益をもたらす人間です。あなたがスシについて関心を持ち、調査を行っていることは知っています。ただし我々としても、興味があれば無条件で仲間に入れるというわけではない。そこでひとつ、条件を課すことにさせてもらいます。サヴァンコフの『蒼ざめた熊』は読みましたか?」

「数年前ですが、一読したはずです」

「あれを読めばわかるように、テロリストにはテロリストの抒情がある。そうですね?ですが、我々が求めているのはそういった抒情ではない。テロルを詩と結びつけるつもりは毛頭ない。サヴァンコフはある意味では非常に善良な人間だったが、彼のようなテロリストは我々には必要ないのです。結局のところ、彼らの集団はサヴァンコフの逮捕のあとに瓦解しましたしね。ああいった人間を排して、理知的な派閥を作る必要がある。あなたの人柄やこれまでの実績は問いません。むしろこれまでの活動は足枷にもなりうる。新しく、我々の組織に忠誠を誓う必要があります。それも理知的に。ただし誓わない場合にはどうなるか保証はできかねます」

支離滅裂だ。こんな集団にいてもスシの未来があるわけがない。逃走する前に、最後にこれだけは聞いておこう。

 「すみません、あなたの言っていることはよくわからないのですが、ひとつだけ質問させてください。スシが振る舞われるのではなかったのですか?」

スシの代わりに銃弾を浴びて僕は死んだ。しかし、サヴァンコフも僕もいつかは復活するだろう。亡霊としてであれ、何であれ。